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D's Talk session #06 with 大嶽好徳

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マントヴァーニ:マントヴァーニ楽団_弦を中心とするイージーリスニング楽団で独自のアレンジによるカスケーディング・ストリングスで一世を風靡した

O:クリスタルズのシングルで《do the screw》ってDJオンリーの盤。契約上の義務で、皮肉っぽく作ったらしいんだよね。レスター・シルと切れるために。シルと共同でのリリース枚数の縛りがあったらしく、作ったという事実だけのためにプロモ盤のみ、4〜50枚と言われてるのかな…。だけど結局は契約枚数に入らなかったらしくて、ちゃんとした1枚は別に作ったけどね。

D:なるほどなあ、それでウルトラレアなわけだ…。

O:一度 Goldmine のオークションで見たけど、$3,000からスタートだったかなあ。

D:ブライアン物でいうところの…何かな? ケニー&カデッツ? いや、あれだ…《surfer moon》、ボブ&シェリーの。

O:だいたいタイトルからして店頭に出せない代物だよね、スクリューって××なんだから (笑)。

D:クリスタルズは歌っているの?

O:音は持ってるのよ。リプロのシングルは一時期出回ったから。歌じゃなくてコーラスだけ。こんなもんかというレコだよね、50万60万と出して買うようなモンじゃあない。

D:はいはい、だいたい分かってきました。

コレクション途中で、失敗としては…レニー・ブルース盤だっけ?

O:そう、かなりのレアと踏んでオークションでビッドした…$100つけて落としたんだけど、すぐ後にある業者がシールドを$10! 泣いた (笑)…。

フィレス・レーベルを集めるのはさほど苦がなかったんだけど、彼が他のレーベルでプロデュースした盤がけっこうあって…そっちが大変だったよね。たとえばパリス・シスターズのグレッグマーク盤がらみとか。それとレスター・シルともからんでいるスリー・トレイ(通称 トレイ)というレーベル物ね。そこではスペクター自身もスペクターズ・スリーの名義で出してたりする…。

D:欲はどんどんでてくるわけだ (笑)。盤自体も?

O:そうだね、そのうちにコンディションも〝M -〟(ミント・マイナス) 以上じゃなきゃいやだとかさ (笑)。

D:となるとダブるでしょ?

O:だよねえ…。DJ盤があればかならず買ってたし。

D:DJプレスは何か違う? レーベルが白とか?

O:いや、色が無いだけ。

D:なんだかんだでやっぱり枚数が増えるんだね (笑)? そのなかで、大嶽さんが一番散財したのは (笑)、あれだ…アイク&ティナのLP

O:【river deep, mountain high】のアメリカ盤。

D:ロスのディーラーから$2,000のオファーで…受けてしまった (笑)。これってUK盤は出ていたんでしょ?

O:モノもステレオも出てる…はず。僕の持っているモノ盤の表記でステレオ盤もあるとなっていたからね。イギリスではそこそこのヒットだったから枚数も出ていたんじゃないかな。

D:対しアメリカ盤は…アイクの顔を立てるために?

O:契約だろうね、最初からの。アイクとスペクターとで半々に制作するアルバムのリリースという。けれどリリースの気は失せてしまったスペクターとしては、少しでも作らねばならず5〜60枚をプレスしたと。

D:クリスタルズのレアシングルと一緒だ。

アイクとしてはUK発売があったからそれで商売…その頃ってスタックス・レビューやモータウン・レビューで黒人音楽があっちでは受けていたから、アイク&ティナ・ターナー・レビューで英国ツアーができるという腹づもりはあったんじゃないかねえ。

O:イギリスではシングルがトップ10に入るヒットだったしね。

D:スペクター自身も気持ちはイギリス向いていたかな?

O:そうかな…ポリドールと組んでスペクター・インターナショナルを作ったわけだし。

D:当時アメリカではまったくコンタクト無し?

O:いや、あの時はワーナー・ブラザース。ワーナー=スペクターというレーベルが一応作られた。でもワーナーは熱心じゃないね。ジェリー・ボー・キーノという、ディスコっぽいシングル作ったんだけどアメリカでは発売なし、ヨーロッパだけだったね。あとディオン…これはさすがにアメリカでも出したけど…。

D:アメリカで…無視された感じってスペクターは悔しかったんだろうかね?

O:そう思うね。さっきは被害妄想なんていったけど、イギリスでの評価をバックにアメリカでもうひと花咲かすつもりはあったんじゃないかな。やっぱりアメリカで売れてこそ、の気持ちはあったでしょ。いくらイギリスではリリースされていたとはいえ。

D:ただなあ、話戻るけどやっぱりアメリカの広さを思うとコアな層が全体からすると小さくてほとんど見えないくらいじゃない…。ヒット曲こそすべて…スペクターとはロネッツとクリスタルズと…。そこで停まっていただろうから、よっぽどのことがなければ再評価はねえ…。

O:ビートルズもやってるわけじゃない、スペクターは。ジョンにしろジョージ・ハリソンにしろ…。それでも誰も見てないよね。逆にビートルズファンからは疎まれた存在じゃない? マイナスイメージのほうが強い…。

D:70年代のスペクターって、ミュージシャンが認めるだけの人…そんな印象だよね。まあジョンにしたって「あのスペクター」意識は持っていて組んだだろうし、スプリングスティーンとかジェフ・リンとか…リスペクトされるのはミュージシャンからだけって印象あるね。一般人には "wall of sound" って何のこっちゃ? "wall of sound" って言葉を大事にしているのはイギリス/日本でしょ。

O:日本では…どうかなあ。

D:でも大滝詠一御大がいるわけでしょ。

O:大滝ファンサイトを見ていると、ナイアガラで皆止まっていて、スペクターまで行く人はどれだけかなって思うけどね。名前は知っているけど買うまでいかない (笑)。

D:【クリスマス】ぐらいはみんな買ってんじゃないの? オレ程度のレベル…。 (笑)

O:今ソニーから紙ジャケ・リイシューされてるけど…どれだけ売れるかな。

D:コレクションの対称としてではなくて、大嶽さん本人としては一番いいと思うスペクター・ワークはどの曲? どのアーティスト?

O:一言ではなぁ…、それでもアレイキャッツの《Puddin 'n' Tain》は好きだね、一枚しか出してないけど。ああいう doo wop な曲、それブルージーンズの《why do lovers break each others' hearts?》もdoo wop調でいいんだよね。

最初はステレオタイプなスペクターサウンド…ロネッツとか、カスタネットがカチャカチャ鳴るような…それに惹かれた。 

D:三連符でガンガン行くタイプね…。

O:聴いていくうちに「スペクターサウンドは管楽器」と思うようになったね。ロングトーンで決めたホーンセクションの妙というか…。Wall of Sound ってストリングスとかカスタネットってあまり関係ないんだよね。でも日本で Wall of Sound っぽい音というとそれが強調されるじゃない。それってナイアガラ・サウンドの影響かも。

D:日本ではナイアガラ経由スペクター・サウンドになっちゃってる? (笑)

O:【ロングバケション】なんかもフル・オーケストラって感じだよね。

D:「弦」に重きが置かれている。じゃあもっと「管」あってこそ…スペクターだと?

O:思うなあ…。

D:スペクターへたどり着く前に大滝というフィルターありきなのかな。「壁」の前に大きな「滝」が? (笑)

O:ナイアガラの初期、かなりホーンが強く出ていてよりスペクターっぽかったよね、僕は好きだったな、その頃が。

D:弦は人数が多くてお金かかるからその当時はできないって裏事情があったんじゃない?

O:お金が許すようになってどんどん弦が増えたかもね。豊穣な弦というのは、マントヴァーニ* の影響と思うヨ。

D:マントヴァーニ?

O:「カスケード・サウンド」、弦が右から左へ流れる…まさに大きな滝のごとし。弦のパートを4つぐらいに分けて、順に追ってゆく…輪唱じゃないけど観客からすると音がまとまりながら動いてゆくわけだよね。

ナイアガラならシリア・ポール、【夢で逢えたら】をよく聴いたなあ。

D:〝ツボ〟だったわけね? 大滝にとっては自身で歌うんじゃなくて女性をプロデュース、まさにスペクターと同じ立ち位置だったんだから本望だったろうね。

O:そうだね。

D:あれ? オレちゃんと聴いてるかなあ、あの盤…。

大滝のかなりのファンだったんだけどね、ソロのコンサートとかも行ったし。

まずはっぴい(えんど)の大ファンだったから…最後の文京公会堂も行きましたヨ。あれって、解散うんぬんよりも各自の活動報告コンサートだった。松本のこれからの仕事ってことで、プロデュース稼業かな…(吉田)美奈子と南佳孝がデビューだったでしょ。細野と鈴木茂はキャラメルママってことでステージがあって、大滝はナイアガラのお披露目…ココナッツバンクと布谷文夫のステージだったもんね。そのなかではオレは…当時高校一年だったけどさ、大滝について行くぞって気持ちになったんだよね、マジに。一番趣味が合った。ベルウッドからのファーストソロやシングル《空飛ぶくじら》も出てすぐに買ったもんなあ。

ただナイアガラでのアルバムはすべて友人、医者の息子に買わせて (笑)、リスニングルームのあるデッカイお屋敷だったからそこで聴いてた…。【songs】以外は持ってない。

O:僕らよりも若い世代は【ロングバケション】から入るじゃない。それから戻ってナイアガラを聴くから、「おふざけ」についていけないって感じるらしいね。僕は逆にロンバケを聴いて「なんだ、マジでもやれるじゃん/ちゃんとやれる人だったんだ」なんて思ったよね。 (笑) 趣味的には冗談音楽、砕けた感じの昔が大好きだったけど。

D:そうだねえ、オレも多羅尾伴内楽団なんか大好きだったなあ。ナイアガラ前だけどベルウッド盤ね、最後でカチっとカセットを止める音が入っていたじゃない、あのジョークが…そんなに真剣に聴くほどのモンじゃないよといわんばかりの、あれが逆にセンスいいなと感じたよね。植木等じゃないけど軽〜い流し方というか…。

O:伴内楽団の盤の最後もエッホ、エッホの声がエンドレスで入っていたじゃない、あれもいいよね。

D:そういう冗談やっていても、気合いというか力の入り具合は半端じゃないと…当時に聴きながらも思っていたよね。

O:そうだね。

D:泣かせることは簡単だけど笑わせることは大変だとよく言われるじゃない、音楽でも冗談やろうとしたら最高のテクニックが必要だってこと…分かって聴いていなかった?

O:深かったよね、聴く度に新しい発見があったし…。

D:それでも会いたい人じゃないな、オレにとっては (笑)…ブライアンと一緒、作品だけあればいい (笑)。スペクターは?

O:そりゃ一緒だよ (笑)、まともな感覚で会える人じゃないもの…。正直、最近あまり音も聴いてないのよ (笑)。

D:ちょっと距離を置いた?

O:距離ってこともないけどさ。なんだかねえ…。

D:でもある程度のスパンできっと戻る時があると思いますヨ。じっくり聴き返すことが…。

O:じゃあその時にまた報告します (笑)。

D:待ってます…。 (笑)

 

 

 

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おまけ:Phil Spector discography