女性アルバム2枚、ともに期待外れてトホホな気分…。

#105
"Maggie & Terre Roche/Seductive Reasoning"
[ '75 CBS/US ]
<C:★>

 オーマイガッ!!…やられてもうた…。ちょいと期待があって普段よりも奮発して買った盤だったがダメであった、すっかり肩すかし。マッスル盤には違いなし、そしてピートの参加も。なれどこんな音とは想像だにせなんだ。

 何故の期待であったのかを説明。No.-041/ポール・サイモンのマッスル盤だが、そこに書いた。マッスルでの1曲に参加がこの姉妹。で、是非聴きたい姉妹のマッスル盤というのがこれという次第。ポール盤でのマッスルリズム隊/ピートのギター、ともに素晴らしかった。ならばこちらもと…。
 ポール盤は73年でロンドン録音の共同プロデュースがポール・サムウェル・スミス。で、こちら姉妹盤はスタジオ表記がなくて、ポール・サイモン1曲/ポール・サムウェル3曲/デビッド・フッド&ジミー・ジョンソンで6曲のプロデュースとなっている。ならば録音はマッスルとロンドンだろう。ポール盤と同時進行での制作かと思ったが発表は2年遅れで75年。ただポール・サイモンの口ききだろうな、大手CBSからの盤だし非常にポール・サイモン色が濃い一枚は確か。ポール仕切りの1曲はまんまポール・サイモン節。(全曲姉マギーの作) 悲しいかなこの曲がまあまあいい出来でほかはすっかりトホホな、つまりは駄盤なのだ。

 この姉妹のバックグラウンドはどこか? カントリー的要素もあるがもっと違う何か、変に高尚な…。姉がピアノを弾けるが単純にクラシックというのとも違うんだよなあ。ある意味マカ不思議、後にロバート・フリップにプロデュースされるのも分かる気がする音…。とはいえ個人的にはさっぱり、完璧にスカ。
 エレキでジョン・ホールとクレジットがあるがどこだかまったく不明。そしてピートらしさも皆無、マッスルリズム隊の妙味も皆無と、久々の「なんじゃこりゃ?」盤でした。



#106
"Lori Jacobs/Free"
[ '73 Capitol/US ]
<C:★★>

 この頁のレコ買いを続けてここしばらく多かったパターン、「一聴がっかり…しだいに好転」。だがこれは逆だった、一聴して“けっこうイイんでないかい”から何度か聴いて“やっぱりダメだこりゃ”へ。
 1曲目でピートの軽快なギターが聴けたので嬉しくさせられたがそのギターも2曲目以降は目立つプレイ皆無。それ以上に致命的は凡庸な曲ばかりなこと。

 その歌声、ちょいと低めのキーでシェール、ヘレン・レディ、それに(キャプテン&)トニ・テニールあたりを想わせる。まあ悪くない声だが、カントリーがかった曲調がほとんど、アメリカらしいミドルオブザロードですな、それも目一杯70年代な。
 前出(No. 088)メアリー・マクレガーにたいしても同様にカントリーなサエないレコと書いてしまったが実はそのタイトル曲は全米1位まで登り詰める大ヒットだった。そう、曲にさえ恵まれればロリーだって人気者に……いや、アーティストパワーはないから一発屋どまりだろうなあ。
 全曲自作のSSW。ライナーによればどうやら結婚離婚を経てのデビュー、それでタイトルが「自由」と。私小説的SSWという立ち位置ですわ。ほぼすべての歌詞はそんな自分の人生を振り返っておりますヨ。70年代らしいね、ここらも。まあ何でも曲さえよければイイんですがねぇ、ワタシにゃ…。

 録音はマッスルとハリウッドとあるが、四人衆にピート/クレイトン・アイビィ、それにマッスルホーンズのバック。ハリウッドは、キャピトルタワーにてストリングスの被せのみだろう、全トラックマッスル録音盤。そつなくこなしただけのマッスル陣営、これまたマクレガー盤に酷似。
(050127)



#107
"The Dells/The Mighty Mighty Dells"
[ '74 Cadet/US ]
<C:★★★>

 やっぱりなあ、ブラックのバックではほんとに弾かないピートである事ヨ…なのだろうか、このLP。

 このLP、エンジニアの中に J. Masters、スタジオが United Sound Systems, Muscle Shoals Sound Studios の表記となればオレには「買い」だった。
 苦手ブラック、名のみは知るデルズ、このグループに関する詳細はまったく分からないまま。ただブラックのフリークにはうけのいいグループと違うだろうかね、熱いシャウトにファルセットも、5人全員がリードを交互にとる歌唱はなかなかに聴き応えがある。ただ、オレにはバラッドでもリキ入ったシャウトぶりがちょいと暑苦し過ぎる。 全体に曲はそこそこ良いのだが、これは!という曲は…オレには無かった盤。

 プロデュースが Don Davis とある(1曲のみ別人)。ブラックフィールドでのマッスル通いとなるとボビー・ウーマック、それに Brad Shapiro の名が思い出されるがどうやらこの御仁もチェックが必要の様子。過去 No. 73 ラリー・サントス盤がやはりドン・デイビスのプロデュースだった。このデルズ盤と同じデトロイトとマッスルでの録り。あちらに書いたようにデトロイトではモータウンスタッフがバックについているがそこらもまったく同様だろう。というか、No. 44 ジョニー・テイラー盤も同じ。
 そこでAMGで見ればこの御仁はもともと北部の人でやはりモータウンとの絡みもある人だ。そしてジョニー・テイラーの売り出しに尽力し、他にもブラックのプロデュース多数、と。 どうも一枚の盤でデトロイトとマッスルと、何を思ってか録り分ける癖?がある。どちらかで固めたほうがすっきりするとオレは思うのだがそれは素人考えかねぇ?

 スネアとハイハットの“キレ/冴え”からしてAー1、3、5、B−2、3、5と全10曲うち6曲がマッスル録音と見る。のっけのマッスル曲はバリー・ホワイトばりの超低音バス声から始まるミディアムで半ばからはシャウターにリードを譲る。3、5曲目と、アップナンバーにマッスルが多い。はたしてこのワウはピートか?と考えるがはっきりしない。
 マッスル曲といえどもピートの参加はあるような、ないような。たぶん居ても弾きの“薄い”ピートなのでここは<C>=“どこで弾いてるの”と評価しておこうか。

 マジな内容にそぐわないコミカル?お茶目?なイラストジャケ。練馬変態倶楽部を思い出したりして。真ん中の人、むきむきパンツ一丁でもヒールのシューズ履いてます…う〜ん、ブラックネス〜(笑)。

 


#108
"Donovan/Lady of the Stars"
produced by Jerry Wexler and Dee Robb
[ '83 Allegiance/US ]
<A:★★★★>

 まったく不思議、中古盤屋のレコ棚にこれを見つけた時になぜ取りあげて裏返す気になったのか。ピート/マッスル力とでも言うべきものが身に付いてきたのか…。AMGピートページには無かったこの盤…。
 裏ジャケのクレジットが気になる盤では絶対になかった、今までにも何度もレコハンティングのさなかで見てきた盤、そしてそのたびに舌打ちしていたブツなのだ、これ。実はかつて買った盤。
 記憶をたどれば、有楽町はガード下、日立ローディプラザという日立のアンテナショップがかつてそこにあり、その斜向かいにあった輸入盤店にて購入。ひいきのドノバンの新譜らしき盤を目にして、「なんで沐浴美女のジャケなのよ…売れなくなるとジャケからトホホだなぁ…」なんて思いながらも格安だったのでつい買って帰ったのだ。しかし一度聴いて嫌になって即処分レコ棚に入れてしまった、そんなブツだったはず。
 それにしてもエピックからレーベル落ちした83年盤、買ったのが2年後として85年あたりだろう。裏ジャケには堂々 Pete Carr の文字が入った盤だってのに気づかなかったのかと我ながら不思議。もしやマイ“ピート”ブームの第一次もすっかり終息していた時期かも…。

***
 プロデュースにジェリー・ウェクスラーの名がありピートも参加、すわマッスル盤だったのか、と思いきやさにあらず…ロスはチェロキー・スタジオ録りでした。そうそう、70年代に入ってすぐにドノバンはロスに拠点を移していたんだよな。
 裏ジャケの special thanks に並ぶ名は、Graham Nash / Pete Carr / Jim Horn / Bonnie Bramlett / Wilton Felder / Dave Mason 。ナッシュやメイソンも英国バンドで名を成した後に渡米、すっかり西海岸人に成りきり派だった。 インサートシートには歌詞と詳細パーソネルがあり、他のバックミュージシャンには Jai Winding / Bill Payne / Lee Sklar / James Gadson / Jeff Porcaro / John Sebastian / Richie Zito / Bob Glaub .... それにパーカッションで Paulino De Costa 、いかにものロス録音メンツが集合となっている。キーボードにはバリー・ベケットの名も見える。となるとウェクス、マッスルショールズからピート/ベケットを呼び寄せたな。2人の出張り参加盤。
 とくにこのセッションでのピートは重責、全10曲うち8曲までのアコ&エレキを担当となっている。もともとアコギの天才ドノバンなのでもちろん本人ギターが全編に渡っているがサポートするギターパートの大半はピートというわけだ。残りを1曲づつでメイソンとリッチー・ジトーが弾いているのみ。 

 で、その内容はと言うと、過去に聴いたはずが記憶まったくなし…まっさらにお初な楽曲ばかりの印象。そして良いンだわ、これが! 前回、20年前だが何を思ってダメ出ししたかなぁ。代表曲「魔女の季節」「サンシャインスーパーマン」のセルフカバーを安易であり落ち目ミュージシャン然が情けなや…と思ったのかも。いやいや、今の耳には2曲も悪くない。特に「魔女の季節」。カバーの多いドノバン代表曲のひとつだが中でも『Super Session』、アル・クーパーとスティーブ・スティルスによるそれが素晴らしかった。そう、オレのひいきのひとりであるスティルスの冴えに冴えたギターワークが長尺で聴きものだった。
 この盤ではそれに対抗したわけでもないだろうがピートが己の持ち駒(フレーズ)を駆使して弾きまくる。スティルスに聴かせたいね。 ベストトラックはAー1のアルバムタイトル曲。ゆったりした曲調に柔らかいドノバン独特な声(腹式呼吸発声法)が乗る。そこにピートのエレキがダブルトラックでからむ様は、やはりピートのギターが冴えたロッドの「今夜きめよう」を彷彿させる。
 B−1"Boy for every girl" も負けずにイイなあ。非常にドノバンらしいというか、ドノバン以外には誰にも作れないそのメロが。ここでのギターはデイブ・メイソンだが彼独特のしなやかなギターワークで絶妙のオブリをつけている。この曲、そうとうドノバンのお気に入りでは。73年『Essence to Essence』に続き2度目の録音。「エッセンス」盤ではセクション(ダニー・クーチら)をバックにスティーブ・マリオットがリードギターという豪華布陣だったが出来はこちらのほうが良い。
 セルフカバー3曲で新曲7曲、80年代にドノバンなんてと言うべからず。正調ドノバン節はいつまでも変わらない。一体このアルバムのどこに不満があったのかと昔の自分を責めたいよ。
***
 前記通りにピートが全編に活躍、裏でのオブリからリキの入った弾きまで縦横無尽は確か…しかしその音は70年代と違う…、やけにツヤとノビのある音。といえば普通は誉め言葉だが、ここでは逆でいわゆるセッションギタリスト然とした音/フレーズがオレの好きだった頃の“味”を感じさせない。正直残念で。ギターやエクイップメントを代えてしまったとも感じる。
 残念ついでに言えばジャケも惜しい。裏はゼマイティス特製のクレシェンド(三日月)ギターを持つドノバンのいい写真、これを表にもってこなかったデザイナーのセンスが惜しまれる。
(050223)




#109
"Peter Yarrow/That's Enough For Me"
produced by Stephan Galfas
[ '73 Warner Bros./US ]
<C:★★>

 No. 74 『Love Songs』は75年の完全マッスル録音盤だったが、その文章の最後がちと間違った。“よほどお気に召したか、ヤロウは次作もマッスルで”…ではなく、その前作『Hard Times』、そして前々作のこの盤もマッスルで録音と資料にあった。
 この73年盤は録音及びミックスにマッスル/ジャマイカ/ロンドン/NY(City)/NY(ベアズビル)/マサチューセッツと、なんだかなあ…予算が有り余っていたのかたまたまこうなってしまったのか…、豪華なアルバムと言うにはまとまりがないってのが正直なところ。
 全10曲中5曲がマッスル録音なのだが、そのマスターテープにNYで Jesse Dixon Singers のコーラスをダビングしたり、ロンドンでアラン・トゥーサンがアレンジしたホーンセクションを被せたり。逆にNYにてザ・バンド(ロバートソン/ヘルム/ハドソン)と David Bromberg, David Spinoza で録ったマスターにマッスルでジミー・ジョンソンのギターのみを被せ、その上でベアズビルではバターフィールドのハープを被せて完成させたりと、とにかくテープを持って英米各地を巡る忙しさ、大オーバーダブ大会となっている。

 マッスル/NY/ロンドンでの録音となれば思い出すポール・サイモン『ひとりごと』(No. 41/6-page)。実際にスペシャルサンクスにそのポールの名もあり、前記NYでバンドをバックに録った曲はポール作&プロデュース。Jesse Dixon Singers 始めセッションメンツも共通する部分多く、アルバムデザインも同様の Milton Glaser となると…ポールのレコーディングセッションと並行して、ほぼ同行しながらこのアルバムも作られたんじゃないかとオレは想像するがどうだろうか。(ポールはその前作がジャマイカ録音だった。なのでこのアルバムでのジャマイカ3曲もその時にやはり同行しての録りとも考えられる)
 さてポールのマッスル盤は素晴らしい傑作だったが同時期に同メンツで録っても誰もが傑作を作れるとはいかない…のは致し方なし、このヤロウ盤は甘い、というか今ひとつ。とにかくこの人は声の線が細すぎてマッスルやジャマイカのダイナミズムについてゆけてないのが最大の欠点。「ラブソング」はハマる人と思うが、ジャマイカにて "Harder They Come" (ここでの表記は "The bigger they come, the harder they fall" ) を歌ってもバックに押されっぱなし…歌いたい気持ちだけは分かるけれど…。

 ピートはたぶんアコギ(&ドブロ)のみ。エレキはジミー・ジョンソンに任せている。リズム隊にもさしたる妙味は感じられず。
 1曲のみベアズビル録音曲が。これ、ソフトロックフリーク垂涎の Free Design のクリス・デドリックが曲をヤロウと共作し演奏の大半も担っている。音楽性や繊細さが近いからだろう、ヤロウの資質が一番発揮されていると思えるのでデドリックの完全仕切りで1枚仕上げれば傑作が作れたろうに…。



 

 

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