ALL CARR vol-TWO


First Half

●Mel & Tim/Starting All Over Again
 Vol-ONE に続いてメル&ティムを。72年 STAX からの名作。このタイトルナンバーがスマッシュヒットだったはず。ヒットもうなずけるイイ曲。Barbara からのテレグラムで始まるといういかにも Storytelling なソウルだがオレが一番好きなのは何といってもタイトな、ピシッと決まった Roger Hawkins のドラム。ホントに気持ちいい、この人のタイコは。
 ピートのプレイ、普段とは変わってここではエレクトリックシタールを。スロー/ミディアムのソウルチューンには欠かせないこの楽器だがピートが弾くのは珍しい。
 さてこの曲の左チャンでギターのぶっ太い単音弾き、これが Jimmy Johnson。マッスル、マッスルゆーてる輩でもジミーのギターって分かってないんじゃないかな。オレもここまで聴き込んで最近やっと分かってきた。雑誌などではコードカッティングの達人とか書かれているがそうじゃない。(たぶんアンプの)トレモロを効かせた単音、もしくは二音弾きの人なのだ。この人は5フレットより上へは絶対に指が来ないな、かなり Twang なギタリスト。(ポール・サイモン「僕のコダクローム」を聴くもよし)

●Freddie North/Sidewalks Fences and Walls 
 いやもう、このフレディ盤『Friend』、たまらんからね、ディープサザーンR&Bマナー…って何のこっちゃ…ともかく、イナタい南部ソウルならばこれというブツ。本編に書いたようにここではギタリスト名義=Jesse Carr、"Pete Carr" とは違う、ぶっ太いギターがたっぷり楽しめるのも魅力。ジミー・ジョンスンにあらず、このLPはピート(ジェシ)一人。

●Gerry Goffin/Set Job
 この12分超えの長尺を何とする? 曲の面白さは全く無いがピートのギターのためだけに選曲した。このLPには Eddie Hinton も参加だがこの曲ではエレキはピートのみ、カッティングからリードまでひとりでこなす。
 ソロLPでのピートの弾きまくりは嫌いだと散々書いているがこれはちょっと、いやだいぶ違う…良いフレーズの連発なのでOKさ。但し…やっぱり長すぎるわ、冗長。バック、四人衆にあらず。

●Gerry Goffin/It's not the Spotlight
 名曲、作者ヴァージョン。Vol-ONE にはキム・カーンズ・ヴァージョンを入れたがピートとしてはこちらが先の録音。アコギ・ダブルトラックは共にヒントンだろう。これが上手い! アコを活かした Heart Warming なアレンジはキム・ヴァージョンと趣を異にしている。一般にはこちらがこの曲のベストテイクかもなぁ…ま、オレにはどちらもアリですが。こちらは、普段はエンジニアリングの Jerry Masters のベース、Jim Evans のドラム。四人衆バックはあちらキム・ヴァージョンと、もうひとりの作者 Barry Goldberg version のふたつ。
 2' 20" からのピートのリード、このフェイドイン・ギターはフェンダー・ストラトの専売特許、はて?ハムバッカー派のピートがストラト弾き? いや、音はギブソン系、ならばヴォリュームペダル? よくは分かりませんがいい味出てますな。

●Donnie Fritts/Winner Take All
 これも本当にピートらしいギタープレイ。“癒し”って言葉は嫌いなんだが、こういう曲を聴くと心穏やかにさせられる。ピートのギターもいい曲にハマってこそ活きるわけで。Alabama Rockin' Guy.... ドニ・フリッツ。

●Percy Sledge/Walkin' in the Sun
 これも本当に…前曲と始まりが同じ? ともかくやっぱりピートらしくてVery Good なプレイなのです。
 ゴフィン同様に60年代はポップエンタテイメントライフの中にいた Jeff Barry もこの時期には随分と Down to Earth な曲を…と思っていたけれど、もしやこのライターは同名異人?

●Percy Sledge/Behind Closed Doors
 ピートらしいイントロの三連チャンになったなァ。左右チャン共にピートが弾く。それに絡んでくるブッ太いの…ジミー・ジョンスンなのはもう分かりますよね。
 ビリー・スワン辺りも思い出すサザンポップチューン。アラバマの夕暮れの中で聴いたらとことんハマリそうなんだよなぁ…。そんな想いを馳せて黙聴…。

●Rod Stewart/Still Love You
 シンセ/エレピは間違いなく Barry Beckett なのにドラムはホーキンズにあらず。録りはロスだろう。
 ロッドらしいウェットなマイナー進行、こんな曲にもピートはバッチリだ。ここでも「フェイドアウター・ピート」の本領発揮、消え入る辺りまでいいギターを弾く。(... take a little break..)


Second Half

●Wayne Berry/Snowbound
 この曲こそオレにとってピート追究の旅の第一歩。四半世紀前のことですがな。どーです、このでしゃばらず引きすぎず、絶妙の歌伴ギターは。歌心があるというか、曲を完全に咀嚼して弾いてますわな。それにしても、久しぶりに聴き返せば、ここでのギターは他にないような“硬さ”だね。なんだかウェス・モンゴメリーかと想うような…、ジャズを感じさせる。
 この曲、Roger のドラムだがベースが James Rolleston というロスプレイヤーが出張りで弾く。この音、間違いなくピック弾きベースだね、これが良い。
 ちょいと逸れるが、オレはピック弾きベースが好きだ。どうも Chuck Rainey の活躍辺りから本格ベーシストは指弾きという風潮が出てきたように思える、これがイカン。スロー曲はともかく、ミディアムからアップ、躍動感あふれる曲にはピックのアタック音が結構気持ちよくて好きなんだ。古くはセッションマンで Joe Osborn 。アソシエイション "Windy" のベース、もろピック。ドゥービーズの黒人ベーシスト=タイラン・ポーターも好きなピックベーシスト。彼らのハードエッジなアップナンバーにハマりにハマっていた。それと、わが日本ではキャロル時代のエーちゃん!よかった、上手かった!
 …で、この曲でのロールストンのプレイ、最初オズボーンかと思ったほど、上手い。曲にもハマっているよ、ピックベース曲の傑作と言ってもいい。
 それと前曲に続いてこれも「フェイドアウター」ぶりをピートが披露。消えかかる最後の最後のフレーズがいいのです。

●Jim Capaldi/Short Cut Draw Blood
 Vol-ONE に続き、British Guy を再度収録。どう?この疾走感、カッコイイ! これがマッスル録音、英国にあらず。四人衆+ピートに本人と Rebop がパーカッションを。いやもう一人、リズムギター担当はあの Chris Spedding 。そーなんです、この英国らしいビートナンバーも確実にこなすマッスルリズム隊もイケるが、この曲のハイライトはスペディングのギタープレイですな。エレキ、アコとも彼だろう、盛り上げがカッコイイ。
 ピートのリードは2分過ぎから。しかし、ジム・キャパルディのセッションでは普段見せない面というか、こんなハードなプレイだったりブルージーなプレイだったり…。このリードなんか、クレジットミスで本当はこれもスペディングが弾いているンちゃうかと最初は思ったくらい。しかしフェイドアウト前の四連符弾きでピートと知れる。

●Mike Finnigan/Misery Loves Company
 一転スローに戻り。Vol-ONE にも書いた事だがホントこのLPでのピートのギターは良い音で録れていて気持ちいい。指スライドをじっくりと堪能していただきましょうか。ドブロもね。
 歌の合間を埋めつくすように弾かれるギター、まさにオブリの極致ですな。ピートの真骨頂。

●Rod Stewart/Tonight's the Night
 このCDR収録曲で一番有名、なんたって全米1位曲。
なんだかただのポップセレブリティっつーか、軽く見られがちなロッドだがこの頃までは凄かった、才能溢れていましたヨ。純粋に曲だけを思えば収録曲中、オレはこれが一番、一番いい曲だと思う。ピートもいい仕事。糸をひくねばりのタブルトラック・リードは妙味抜群。

●Lenny Le Blanc/Rainy Nights
 これもいい曲だよなぁ。しつこいが、絶対にカントリーじゃないゾ。演奏・コーラス含め全てをル・ブラン/カート/Roger Clark の3人で録れてしまうというのだから、才能ある人たちはまったく羨ましいかぎり。

●Cat Stevens/Child for A Day
 英国SSWのキャット、しかしロッドやキャパルディと違い、ここではもろにマッスルな曲調、ゴスペルクワイアも絡んでサザンアメリカンな色合い強し。ピートもお馴染みのフレーズで。ベケットのハモンド良し、フッド&ホーキンズ=リズム隊良し。

●Le Blanc & Carr/Johnny Too Bad
 オリジナルは誰なのか知らないがジャマイカン・レゲエでしょ、この曲。レゲエといえばボブ・マーリ、レーベルはアイランド。そのレゲエなレーベル、アイランド所属トラフィックのメンバー=ジム・キャパルディ75年のLPトップでこの曲が聴ける。それもマッスル録音、ピートがリードを弾いている。2年後このル・ブラン&カーLPにも採りあげたのはキャパルディ・セッションでピートが覚えてきたからだろうとは、本編にも書いたこと。
 切れのあるギター、この「切れ」を出せるのがプロのセッションマン。ピート、伊達にギターで飯喰ってない。Roger Clark / Bob Wray / Randy McCormick / Clayton Ivey とピート組セッションメンで録り、Wishbone Studio/マッスル/アラバマ。

●Le Blanc & Carr/Midnight Light
 アルバムタイトルナンバー。これも良く出来た曲でしょ。ちょっと洗練されてきたと言うか、コンテンポラリィにまとまって来た嫌いがないでもないが。

●Dr. Hook/Sharing the Night Together
 前曲の作者のひとり Eddie Struzick がここでも Co-writer に。本編に書いた通りこの曲はル・ブランがオリジナルのマッスル曲。ドクターフックが採りあげて全米6位の大ヒット。邦題「めぐり逢う夜」。マッスルサウンド録音、四人衆+ピートのバック、全体に軽く仕上げた。ストリングスが甘すぎるかな、でも悪くない。