シャピロによる“白”盤…は、アメリカンガール。

#100
"Becky Hobbs"
[ '74 MCA/ビクター JP ]
produced by Brad Shapiro
<C:★★★>

 『南部のフィーリングをもつ大型女性ヴォーカリスト、ベッキー・ホブスが素晴らしい作品とプレイヤーにめぐまれ、完璧なコンビネーションで完成したファースト・アルバム !!  <特別参加メンバー:デビッド・フッド(ベース)ロジャー・ホーキンス(ドラム)ベリー・ベケット(キーボード)>』
 これが“おび”のうたい文句(“ベリー”はおびまま)。マッスル録りセッションメンツに“特別”もなかろうと思うし、ピートは無理としてもジミー・ジョンソンの名が無しか。上の3人は74年当時の日本でも知られていた証左なのかも。 ジャケ裏が、昔の日本盤のパターンでライナーノーツ/歌詞を刷り込み(オリジナルの裏が分からずとても残念)、そのライナーではリディア・ペンス/ボニー・ブラムレット/キャシ・マクドナルド等の名も挙げている。つまりはソウルフルなボーカルってやつだわね。
  ただしベッキー嬢は幾分淡泊なのでちょい鼻にかかったハスキー声とはいえ、どちらかといえばカントリー寄り、ライナーでうたうほどR&Bテイストはない。誰かに似ているなあと思いつつ聴いていて、…そうだ、キャロル・キングだ。ただしキーがキャロルよりも高い、ならば「18歳のキャロル・キング」、聴いたことはないが若きキャロルの声はこんなだったのでは。

 それにしてもなかなかの好盤なのにショボいジャケットで頂けない。イナたい格好といい、どうみても三流カントリーシンガー風情のうえに典型的ヤンキー娘顔。
 その風情なのに意外も意外、この盤も前から続いての Brad Shapiro 関係盤、ずばりプロデュースはシャピロである。 前出ディアンヌ・ブルックス盤で“白い”エイハーンによる黒人シンガーのプロデュースが意外だと書いたが、今回はその逆、ミリーの後ろ盾シャピロは想像では黒人プロデューサーなのでこのド白いアーティスト盤を手掛けていることにかなり意外な感ありなのです。

 ゴスペルっぽい楽曲もあるが全体の印象はカントリー寄り。それは作の半分を手掛ける Lewis Anderson なるカントリー系ソングライター/ギタリストがどうやら彼女の後ろ盾らしいところからも来る印象。残り半分は自作、つまりSSWでもあるベッキー嬢。なかなかメロディメイカー、他愛のないラブソング歌詞が気になるがメロとリズムの良さで目をつむろう。

 四人衆+ピート/トム・ローディという手堅い布陣のマッスル録音。この手のアーティストならばもう少しピートのソロがあってもよさそうなのに。渋いピート節オブリがちらっと聴ける曲が1曲だけ…。

 


"Jackson Highway"
[ '80 Capitol/US ]
produced by Jimmy Johnson/David Hood
<…:★>

 国立ユニオンで見つけたブツ。「ジャクソンハイウェイ」とくればオレにはすっかり馴染み、初代 Muscle Shoals Sound Studios の所在地はのっけに書いたとおり、3614 Jackson Highway, Muscle Shoals, Alabama 。むさ苦しいバンドを描いた下手イラストジャケながら裏返せば produced by Jimmy Johnson & David Hood の文字、やっぱりね。録音がマッスルスタジオでありホーキンス/フッド/ジョンソン三人衆の参加、special thanks にはバリー・ベケットの名もある盤ならピート不在とはいえ立派なマッスル盤…なれど聴けばあまりにショボい内容にガク然、『Crimson Tide』(12頁)同様これも参考盤とする。

 そうそう、この盤とクリムゾンタイドは共通点あり。そこにフランキー・ミラー盤(10頁)もからむ。この三枚はどれもキャピトルリリースであることから、オレの想像では70年代後半からマッスルとキャピトルに何やら関係ができたとみる。FM盤はマッスル・ロゴが足されたレーベルデザインだったがこのジャクソン盤もまったく同様。マッスル原盤をキャピトルでプレス/ディストリビュートという契約盤はこの三枚に限らずある程度出されたと思う。

 クリムゾン盤との共通点はジャケットも。ともにエアブラシイラストで、クリムゾン= Marilyn Shimokochi、ジャクソン= Mamoru Shimokochi のクレジット。アートディレクタは当時キャピトルのハウスAD、Roy Kohara で共通なのは当然としてもイラストレータ「シモコウチ」は…。かなり同一人物臭くもあるがまあマリリンの女性名まで使うことはないだろう、たぶん夫婦。
 
 それにしてもショボいのはジャケも内容も…80年にこの音とは。遅れに遅れたサザンロック・バンド、ギブソン系ハムバッカーをツインリードで弾きまくるお約束パターン。おっと、ちなみにジャケに描かれたように5人メンツのバンドです( additional としてホーキンス/フッド/ジョンソンに Randy McCormick らが)。 まあたとえ70年代始めだったとしてもこの内容ではにっちもさっちもいきやしないけれど。
 ちと思ったのは、このバンドとレーナード・スキナードとの違い。テクをいえば大差なし。どちらも掃いて捨てるほどあった南部ローカルサーキットバンドだろう。長髪に汚いベルボトム姿でギブソンをかき鳴らす…そんなバンド。ライブでは対バンしていてもおかしくない。実際レーナードもデモ録音のプロデュースはジミー・ジョンソンだった。
 しかし、人々の琴線に触れるほんのちょっとしたキャッチーなメロがあるかどうか、いつの時代でもこの差がどうしようもなくデカいのだなぁ。あれば後々まで語り継がれるロックセレブリティ入り、なければこのジャクソンのようにアルバム一枚でおじゃん、それすら誰にも知られることもなく…。

*****

 ジャクソンハイウェイの名ながらこの盤での録音場所クレジットは、"1000 Alabama Avenue, Sheffield, Alabama" とある。スタジオ移転先はこのアドレスが正確なのかも。12頁フィリップ・ミッチェル項で、1000 Alabama Avenue は新スタジオとは別ではと書いたがそこにはシェフィールドとまでは書かれていなかったから。



******

アタマで、マッスルに集ったトップミュージシャンとして挙げたがなかでストーンズとディランの盤はいままでノータッチ。ストーンズはまあ好きな部類で、ディランは声はダメだがソングライターとしてはかなり認めるアーティスト。しかしどちらもレコはほとんど持ってなくて…。

"The Rolling Stones/Sticky Fingers"
[ '70 Atlantic/US ]
<…:★★★★★>

 まずはストーンズだが、だいたいがほんとにマッスル録音なんてあったっけ?「マッスルへ参じた」と我ながらいい加減な物言い。そこで、ここら辺じゃなかったかとカミさんのCD箱から取り出したのがこの「スティッキー」。クレジットにはしっかり Muscle Shoals Sound Studio の文字がありました、よかった。この盤の前後ではどうか? たぶんないよな、これだけだろう。
 Site-Walker してみました。ストーンズのご意見番といえばマイクこしがや大先生、氏のサイトに "Brown Sugar" が、“69年12月2日、USツアー中のストーンズはアラバマ州マッスルショールズ/マッスルショールズ・サウンド・スタジオでミック&キースの共作によるこのナンバーのレコーディングにかかり、翌70年5〜8月にかけてロンドン/オリンピック・スタジオ及びスターグローブス/RSMで完成させた”とあり。

 それと友人から映画『ギミシェルター』にスタジオ風景ありと情報を得たので、とにかくそれを見なければ話にならぬ…で、別友人からテープダブしてもらって。
 今頃、やっと見ました「ギミ」。う〜〜む、映像の中で初めてみるマッスルスタジオ。あの栄光の、レンガ造りの初代=ジャクソンハイウェイにあったスタジオが写し出された! パーキング側の横壁に "Muscle Shoals Sound Studios" の大看板がかけられ、正面ドアの上にはアドレス "3614 Jackson Highway" 看板がかけられていたそのスタジオ。
 卓(コンソールルーム)でプレイバックに聴き入るメンバーの映像も。ミック横でしっかり卓を管理しているのは Jimmy Johnson 。その名はこの盤のエンジニア・クレジットにもある。つまりはこの「スティッキー」に関わったのはジミーのみ、それもエンジニアとして。四人衆の誰も、もちろんピートも、演奏に加わっていないとなれば、あくまでストーンズがアラバマまでやって来てジミーに卓をいじらせて数曲録音して帰って入った…だけのアルバムとなればやはりこれも参考盤としておくのみ。

 ただし、ピートは自身サイトでアマ時代から憧れだったストーンズとセッションできたと書いている。ストーンズのマッスル滞在はせいぜい二日じゃないかと想像するが、マッスルリズム隊とのセッションはあったことだろう。Stones at Muscle Shoals というブートはないのだろうか?
 そのブートがもしあれば、映画のなかでの収録曲バージョンが含まれてしかるべき、是非欲しいブツ。というのも、どうやらマッスルセッション曲はこのアルバムうちの3曲、 "Brown Sugar" "You Gotta Move" "Wild Horses"。プレイバックを聴く場面でかかる3曲。なかで「ブラウン」はリードギターが別テイクだし、「ホーシズ」はエレキ入れ前テイク、アコギが前面に出てるそれはいわばアンプラグド・バージョンで個人的にはオフィシャルよりもこっちがいい。アコのハーモニクス音がオフィシャルでは引っ込んでいるがそれがぐっと前に出たこのバージョン、いいじゃないか。

****

69年末になにゆえストーンズはアラバマへと乗り込んで来たか? まずこの時期ならばロックフィールドでのマッスルのネームバリューはまだまだのはず。というよりもあのストーンズが、ということのほうがその後のためになったはず。つまりはロックフィールドへの架け橋がこのストーンズの訪問だったろう。となれば何ゆえだったか? そりゃもちろんR&Bフリークとしてのマッスル詣でですわなぁ。なにしろシカゴのチェス・スタジオへもはせ参じた彼ら、アメリカツアーとなればついでに寄るべき場所のリストアップは怠らないンだろうね。
 となると行くべき場所は南部R&Bの聖地と噂されていただろうフローレンス在の FAME Studio ではなかったか。その年に出来たばかりの四人衆によるマッスルスタジオではなくて。なのにストーンズはマッスルスタジオへと。ここにからむはジェリー・ウェクスラーではないだろうか。
 フェイムでのウェクスラー仕事がマッスルという「場所」を有名にしたのだが、スタジオとしてのフェイムのオーナーはもちろんリック・ホール。でね、オレの想像はある時期からウェクスとホールはもめた、と。たぶん金じゃないかなぁ。ウェクスはフィル・ウォルデン(=カプリコーンレコード)の独立に助力したのもこの時分、同様にホールともめていた四人衆に資金援助して独立に力を貸したのもホールとの確執が裏にあったからと思うのだ。
 つまりマッスルとはホールではなくてあくまでもウェクスラーが最重要人物、その彼が今後はフェイムではなくマッスルスタジオを拠点にしそうとストーンズ側も察知したのだろう。ちょうどストーンズ側も同名のアーティストレーベルを立ち上げたばかりの時でそのレーベルのアメリカでのディストリビュートはウェクスが関わるアトランティックだったという関係も見逃せない。

 


"Bob Dylan/Saved"
[ '80 CBS/US ]
produced by Jerry Wexler/Barry Beckett
<…:★★★★>

 で、お次にディランだが、こちらはなにゆえマッスルへと詣でたか? こりゃもうあきらかにキリスト教=ゴスペルですわね。ディランの改宗三部作うち「Slow Train Coming」とこの盤がマッスル録音。「スロートレイン」はまだ聴いてない…あまり聴く気しないんだよな。「スロートレイン」もこの「セイブド」も、「スティッキー」同様に単にマッスルで録ったというだけのやっぱり参考盤、オレとしては食い足りない。
 ドン・ニックスやジーニー&マーリーン・グリーン盤で触れたようにアラバマという土地柄か、かなりコアなゴスペルフィールドとも思えるマッスル界隈。ダン・ペンも Born Again Christian とありました。この時期のディランもボーンアゲインしちゃってたんだろな、きっと。なのでディープにゴスペルな気分を音盤に込めるためにはとマッスル詣で。

 しかし、この盤もプロデュースこそジェリー・ウェクスラー&バリー・ベケットなのだがバックを務めるは Tim Drummond / Jim Keltner / Fred Tackett / Spooner Oldham 。なんでやねん…の気分なのです、オレ的には。 
 女性コーラスがもろゴスペルクワイア…ディラン先生の力いっぱい "Saved" されし魂の歌声?? まあ抹香臭いといえばそれまでなんだが…やはり盤としてのレベルはなかなか高い。たぶんに手だれなバックメンツの実力によるのだが。
 締まった演奏とコーラスが佳曲を盛り上げる、いいはいいンだが最初に記したようにセンセの声と尻あがり歌い方がダメなオレとしては…このまんま別アーティストが歌っていたらベストなような。 とにかく歌詞の意味さえ置いておけばかなり良か盤ですな。
 "In the garden" "Saving Grace" でのギター、クレジットどおりにタケットなのかなぁ? エイモスのようなフレーズ/音色がたまらなくイケる。

PS:このジャケ写はオリジナルとはまったく別のCDのもの。どちらもイラストだがオリジナルが救いを求める手のアップゆえ、あまりに宗教色が強いってことで差し替えられたと思う。




#101
"Mac Davis/Forever Lovers"
[ '76 CBS Sony/JP ]
produced by Rick Hall
<…:★★>

 資料にこのマック・デイビスLPにもピートは参加とあった。しかしどうやらクレジット上ではその名があるブツはなさそう。となれば考えられるのは「クレジット漏れ」。で、クレジットは Dr: Roger Clark, Kbd: Randy McCormick、ベースが Lenny Le Blanc ではなく Jerry Bridges なのだが、クラーク/マコーミックとくればマッスルBチーム=ピート組とも言えるメンツゆえこの盤あたりにピートが参加ではないかと買ってみた。

 プレスリーのヒット "In The Getto" のライターとして知られるマック、などというまでもなく本国ではTVショーも持っていた超ビッグネームらしいこの人のアルバムの初体験。 う〜む、しかしこりゃ見事なポップカントリーアルバムだ〜ね。つまりは、日本では逆立ちしても売れない盤。いわばアメリカの「演歌枠」、本国でバカ売れしても日本じゃダメだわ。スギリョウやマツケンサンバを買うアメリカ人がいないことの裏がえし。日本盤出ること自体が奇跡(…は言い過ぎ)。思うに、米CBSから「オレらの国でこんなに売れてんのになんでジャパニーズにゃ受けないんだ?おまーらの売り方が悪いンちゃうか?アメリカをナメとんか!?しっかりせんかい!」とお達しがソニーに来た…のでは。
 しかしあきませんがな。これらの曲に郷愁抱く日本人とは今でもタンスのウエスタンシャツが捨てられない保守派マニアぐらいでは。かなりのマイノリティとわたしゃみます。渡米経験十回越えるようなアメリカ通でしょう、そうはいないヨ。
 でオレはというとウエスタンシャツは捨てたけれどかな〜り郷愁感じちゃうクチなんだがね(渡米経験はわずか3回ですが)。ただし、カントリーよりもカントリーロック派閥なのでストレートには来ない。やはり押しの弱さ/アクの無さに物足りなさを感じる。あ、いいメロだなぁと思う箇所は少なくないンだけどね。

****

 クレジットではギターはケン・ベル/トラビス・ウーマック。 ピートの得意技のひとつに2トラックを使ったひとりツインリードギターがある。5度開けで2本のギターを多重録音。そうさな、ロッドの "Sailin' " あたりを思い出してもらえば分かるだろう。かなりの頻度で出てくる技のひとつだがこの盤、Aー1がいきなりダブルトラックのギターから始まるので“もしや!”と注意して聴いたが…やっぱりどこか違う。
 全般にかなり小気味よいギターが聴けるがややカントリーがかったよくあるプレイといえばそれまで。ケン・ベルのプレイはここまででしょ。(と言い切るオレはあくまで“ピートのひいき筋”だからだな)
 リック・ホールのプロデュースゆえ当然ながら録りはマッスルサウンドではなくて FAME Studio の盤。

 


*********

この盤もピートは不参加。リードギターはラリー・バイロムのみ。

#102
"Latimore/Dig A Little Deeper"
[ '78 Glades /US ]
<…:★★★>

 男悪くはないんだが…。 レゲェシンガーのような風貌の御仁、オレには初体験なのだが、声も曲も悪くないが平均点というか、凡庸であって繰り返し聴こうという気分にはならないんだな、この盤は。

 全編マッスル録音で、四人衆にリードギターは Larry Byrom のバック。ラッパ録りはデトロイト、弦録りはナッシュビル、それに additional recording としてマイアミ/クライテリアとクレジットされている。
 聴いたことろはマイアミ色強し。distribute が T. K. Production というマイアミの会社(no.098 「ファクツ・オブ・ライフ」盤と同じ)だが、たぶん Glades Records というレーベルもこの傘下でマイアミ在だろう。 南部というよりもちょっと明るい色香を感じる…フロリダの風(?)
 全7曲でオリジナルが4曲を占めるからSSWでもあるわけだ。残り、George Jackson, Micky Buckins 作の2曲はマッスル曲、最後の1曲は、ピートのギターが冴えたオリジナルはロッド・スチュワートであったところの "今夜きめよう/Tonight's the night" 。この大ヒットカバー、ぐっとテンポ落としてブルースアレンジ。Blues Brothers でも歌いだしそうな…。元が良すぎるからあえて大胆なアレンジにしたのだろうがこりゃ違うかなぁ。

 ギターのラリー・バイロム、マッスルギタリストの一人だが、結構弾く人。なにしろ“ワイルドで行”ってしまったステッペンウルフあがりという人だ。ここでも全編目立つギターを弾きまくり。ピートとえらく違う。しかし世の中むつかしいモンでただ弾けば良いというわけでなく…、たっぷり聴かせてくれるバイロムだがやっぱり面白くないんだよなあ。トーシローな諸兄からは“ピートとどこが違うの?このギター”と言われそうだが、ずばり、ピートの持つ“冴え”がないんだ、この人には。

 

 

#103
"Irma Thomas/In Between Tears"
[ Originally 69? Angus label ]
<B:★★>

 話がえらく飛ぶけれど、スクーターズをご存知? 日本のR&Bバンドで80年代に極々一部で活躍、話題になった。一応ナベプロ所属でメジャー徳間(ジャパン・レコード)からLPを一枚出したんだけど。キャッチフレーズは“東京モータウンサウンド”でした。(詳細はわがサイト内「Tokyo 70's Rock」の Vol-5 を見て欲しい) そのLPに収録されていたなかの1曲 "Breakaway"。この曲はカバーだったが、そのスクーターズのアレンジをまんまパクって英国でカバーヒットさせたのはトレイシー・ウルマン。日本盤から英国人がパクるという珍しいパターンだったが、まあそれは置いておいて…、この曲のオリジネイターがこのアーマ・トーマス、なんだよな、どうやら。
 てなことでアーマまで戻りましたが、まあアーマのオリジナルをカバーと言えば、"Breakaway" なんて重箱ネタじゃなくて誰でもご存知なのはズバリ、 "Time is on my side" by Rolling Stones 。アーマ64年の曲をストーンズがカバーして、本家よりもいまじゃ有名だよな。

 そんなニューオリンズのR&Bクィーンの数あるアルバムのなかで、スワンプドッグことジェリー・ウィリアムズのプロデュースによるマッスル録音がこの盤。ただし中古屋で見つけた、今手元にある盤はオリジナルではなくて81年英国チャーリーからのリイシューLP。なのでジャケ写はまったくオリジナルとは異なるだろう、ショボい代物であります、あしからず。

 過去スワンプドッグ(=ジェリー・ウィリアムズ)プロデューによるマッスル盤は Freddie North と Z. Z. Hill 。他のブラック盤ではほとんどリードらしいプレイをしないピートだが、スワンプドッグのセッションではなぜかよく弾く、聴かせる。それはこのアーマ盤でも同様。ここでのギタークレジットはピートとデュアン・オールマン。ただしデュアンだろうと思われる箇所はA面最後曲のラストで切り込んでくる一発芸のようなギターのみ。その他、大半はオブリだがピートだろう。そのオブリがフレディ盤同様にえらく“オン”なんだがね。
 聴き物はB面で、1、2曲目がつながっている長尺メドレー。10数分に渡って、最初はオブリを、それがだんだんとアーマの歌とともに昇りつめて行く、ギターもリードフレーズへと変わって盛り上がる。ただし力が入っているのは確かだが、正直この時期のピートのリードは甘いのも事実。荒削りで未完成なので70年代半ばのギターにしびれるオレとしては物足りない。それでも幾つかのフレーズは、ロッドのアルバム『Atlantic Crossing』における最高のピートのリードギターの中で聴けるそれと同じだったのが面白かった。そうか、このフレーズ(手癖?)は既にこの時期からだったんだな、と。

 アルバムの出来としては…どうかなあ、メロ指向のオレを満足させる楽曲は無しなので星二つ。パワフルなボーカルスタイルと声量に秀でた物があるとは思いつつ、こういう人はやはり楽曲に恵まれないと辛い…。

Piano : Swamp Dogg / Guitar : Jesse "Pete" Carr, Duane Allman / Bass : Robert "Pop" Popwell / Organ : Paul "Berry" Hornsby / Drums : "Squirm"
 とクレジットされた(たぶん)クインビー・スタジオ録りの一枚。
 



#104
"Mel & Tim"
[ '73 Stax/US ]
<B:★★★★>

 No. 33 (page 4) 『Sarting all over again』のメル&ティム、あちらも良かったが翌年のこの盤もいい。
4頁で採り上げたのはリイシューCD、ボーナスとしてこちらの盤から4曲をプラスされていたとは書いた通り。うち2曲はマッスルらしからぬ16ビートとも書いた、どうも出来はこちらは落ちるという印象が先に立ったが聴けばそんなことはなく、なんともマッスルらしい滋味溢れる好盤であった。

 爆発的に売れるようなパワーを持つデュオではないがなんともいい味を持つ2人。好きな人にはたまらないといったところかな。まあ個人的には「マッスルショールズの音にハマる、なんとも溶け込む声なのだ、2人とも…」てな印象。アップ曲もなくはないが全体的にはメローなスロー/ミディアム多し。

 で、前作タイトルトラックは全米トップ20ヒットで、ライターのフィリップ・ミッチェル(12頁)にとって代表作としたが、この盤も前作に続きフィリップ曲のオンパレード。全10曲中8曲が彼のペンによるナンバーなのだ。つまりは、バカラック曲のベストパフォーマーがディオンヌ・ワーウィックであったように、フィリップ曲ならばメル&ティムにお任せ状態なのだね。フィリップ自身の歌ではどうもユルかったがこのデュオにかかると燦然と輝いてくるから不思議。

 それにしても前作と同様なのはピートのギターの“薄さ”。なんでもう少し弾いてくれなかったのだろう。ブラックの裏(バック演奏)では控えると頑なに決めていたのか? そんな中で唯一いいリードを弾く曲はA面最後の "I'd still be there" 。このスローバラッドがやはりベストトラックとなっている。

 コーラス参加はメンフィスがホームグラウンドだろうがナッシュビル/マッスルでも活躍した、女/男/女の三人組ローズ=チャーマーズ=ローズ。この三人も白人だから、四人衆/ピート/マコーミックというバックメンツの全てが白人なんだよなあ。南部アラバマ・マッスル録音は意外や白い人たちがまろやかに黒いアルバムを数多く作っていたのだった。
(041112)








 

back TOP or Next